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大岡越前と遠山の金さん

 

名奉行といえば

子どもの頃、テレビ時代劇で『大岡越前』や『遠山の金さん』が繰り返し制作され、放送されたものでした。
一話完結の勧善懲悪のおはなしなので、子どもにも分かりました。「この桜吹雪が目に入らねえか!」という威勢のいい啖呵で締める金さんの方が、僕は好きでした。加藤剛演じる越前守は、ちょっと子どもには渋かった…とはいえ、今思えば、脇役が充実していて、こちらも良いですね。

実在の人物とは知りませんでした

いや、実在の人物とは知っていたんですけど、「いつかどこかの劇作家が、適当に話を盛ったんでしょ?」くらいに思っていたのです。
最近、吉川弘文館の人物叢書『大岡忠相』と、山川出版社の日本史リブレット人『遠山景元』を読んで、そんな自分の思い込みをはるかに上回る実像を知ることができ、大変面白かった!

徳川吉宗のもとで

大岡忠相は、徳川吉宗に抜擢・重用され、長い吉宗の治世を支えた高級官僚でした。各種の制度を立ち上げ、運用した能吏だったとのこと。特に裁判記録の管理に勤めており、『大岡裁き』の語が残っているのもうなずけます。また経歴の中で、江戸だけでなく関東各地の裁判沙汰に関わり、各地に残された書類に署名があるため「名奉行」の印象が強く残ったのだとか。
吉宗の没後まもなく後を追うように病没したということで、なんとなく主従の信頼関係に思いをはせてしまいますね。
なお、忠相は大いに出世して、最後は石高1万石を超え、大名になったのだそうです。これもまたビックリしました。

民衆の生活を守るため、水野忠邦の天保の改革に反対

 遠山景元のお父さんは、養子として遠山家に入り、学問にはげんで、幕府の試験(学問吟味)で首席を取ったことをきっかけに、大いに出世し、また活躍しました。
この方の通称が金四郎で、子の景元も名を継いだのだとか。江戸時代の当時から「遠山の金さん」という呼び方があったようで、これまた驚きです。
景元は、町奉行を勤める中で、老中水野忠邦の打ち出す統制的な施策(商店を減らさせる、飲食店を減らさせる、歌舞伎などを禁止する…)に対して「民衆の生活を破壊しかねない」という立場から反対をしました。前任者や同僚が老中によって排斥される中、景元は粘り強く事態にあたり、天保の改革は一部は行われたものの、一部は縮小・遅延させられたとのこと。
なるほど、これは「町民の実情を知る、町民の味方」のイメージにつながりますねえ。
実際は、町奉行という役職につく者の間では「町民の支持を得ない政策はうまくいかない」という共通認識があり、政策的な継続性があったようで、あまり金四郎景元ばかり持ち上げるのはフェアではないようなのですが、金四郎という通称や、入れ墨を入れていた(これもどうやら事実だそうです!)ことなど、民衆に愛される要素が多いから、人気も納得ですよね。

「人物の生涯」の視点から、歴史を眺める面白さ

学校で学ぶ歴史は、いわゆる通史で、歴史上の英雄、著名人であっても一人の人生を学ぶ機会はなかなかありません。
最近何冊か読んだ『日本史リブレット』『世界史リブレット』は、選ばれたテーマについて歴史上の流れが述べられており、一冊あたりの記述の範囲は数十年から数百年にまたがりました。
そうした、やや広い視野で歴史を眺めるのも面白いですが、一人の人物に注目して、その人物の経歴や行動、思想からその当時について学んでみるのも面白いものですね。その人物への評価がどう成立したか、成立後変遷したかを知ると、さらに面白い。
歴史は面白い題材がたくさんあって、ほんと楽しいです。

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