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一冊の新書で地方自治についての視野が得られる

不純な動機で読み始めたのですが…

「地元の市議選の候補者の顔ぶれや、当選者の得票数を見る限り、…今の仕事に行き詰まったら、市議会議員にでもなろうかしらん。もしかしたら、なれるかも」という、かなり不純な動機で『日本の地方政府』を手に取りました(実は『日本の地方議会』という新書も買って積んであります)。

読み始めて、著者の浩瀚な知識と、明晰な分析に大いに驚きました。これは転職先を物色するようないい加減な気持ちではいけないと、腰を据えて読みました。

目次を見れば一目瞭然、教科書的なたたずまい

首長(知事・市長・町長・村長)と都道府県・市町村議会議員の関係を整理する第1章「首長と議会」から始まり、「2. 行政と住民」「3. 地域社会と経済」「4.地方政府間の関係」「5.中央政府との関係」と、教科書的な章立てです。
著者は、個別の事件や事案には深く立ち入らず、概略を述べるにとどめながら、大きな構造(首長と議会、都道府県と市町村の二重構造、中央政府と地方政府、地方の議員の政治活動と中央の政党)、および主要な問題について、事実を整理して教えてくれます。
広範にわたる内容を新書に詰め込んであるため、個々の掘り下げが物足りない、と感じる方もいるでしょう。そういう方のためには、巻末に大量の参考文献がリストアップされています。
地方自治について学びたい人が最初に手に取る本。ときどき読み返す本だと思います。

民主主義の学校に、僕らは入学さえしていない

中央政府との関係を述べる第5章の、その最後では、近年の地方分権改革の流れが整理されています。その改革の成果について、著者の評価・分析はなかなか手厳しいです。

その手厳しさの理由は、終章で分かります。終章「日本の地方政府はどこに向かうか」で、著者は「地方自治は『民主主義の学校』と言うけれど、我々日本人はその学校に入学さえしていないのではないか」とまで言うのです。

なぜなら、日本の地方政府は、税金の問題を扱わないで済むから。我々選挙民は、税金の取り方・使い方について真剣に考えないでも、首長や議員を選べてしまうのです。

現在の制度では、(本文で縷々説明されているのですが)地方政府は財源をどうするか(=何に税金をかけるか)について、考える余地があまりありません。これまでの地方分権改革も、結局そこに手を付けていないのです。
著者は、それは民主主義国家の市民として良いことではないのではないか、と、投げかけているわけです。
どこに課税し、何に使うか。お金の話を、シビアに議論する。それだからこそ、「民主主義の学校」として機能するのではないか、というのですね。もっともな意見だと思います。

みんなでこの本を読みましょう

地方自治に興味・関心のある人が、広く全体を見渡すのにとても良い本だと思いました。
学生はもちろん、首長、議員、そして公務員の皆さん、そして国民であり県民であり市民である一人ひとり。本当にたくさんの人に読んで欲しいです。

コメント

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