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読むのなら、『ペスト』だけでなく、こちらも是非


新聞で、カフカの『ペスト』が売れている、という記事を読んで、ちょっとびっくりしました。
感染症が流行する環境下での人間関係や、社会について、文芸的に意味を考える前に、ウイルス、新型コロナウイルス感染症について、予防法や治療法について正しく理解したい。そういうのが、普通の人の関心事だと思っていたのです。

以下で紹介するのは、この数か月で私が読んでみた、ウイルス、免疫、感染症に関する一般向けの本。『ペスト』だけでなく、ぜひこちらも読んでもらいたいです。

3月、4月頃のデマや買い占め騒ぎもひどかったですが(マスク、消毒液、トイレットペーパー、キッチンペーパー…)、5月末現在、感染者数の増大が収まってきて(第一波?)、今後、非科学的な情報を流布させて、稼ごうとする人が出てくる気がして、とても嫌です。

科学で分かっていること、分かっていないことを素人なりに勉強しておくようにし、変なデマに踊らされず、適切な方法で対応していきたいですよね。

講談社ブルーバックスの免疫に関する書籍2冊

『免疫力を強くする』は、ウイルスと免疫、感染症の基本に加えて、ワクチンの仕組みについて説明している本です。ワクチンの効果と、そのリスクについて、病気の詳細情報や、数字を挙げてくれています。
世間に流布する反ワクチンの意見が、否定された論文を参照しがちであること、リスクを過大に見積もっていること、ワクチンを打たずに感染症になった場合の問題との比較衡量が無いこと、などが冷静な文章で語られます。
2020年5月時点では、新型コロナウイルス感染症に対して安全で効果のあるワクチンは開発されていませんが、これから出てくるようですので、その時にまた参考になる本ではないでしょうか。

『新しい免疫入門』は、自然免疫が働く局面から、獲得免疫が機能するまでの人体内の機構を説明しています。いわば分子生物学の本です。専門用語が多く、読むのはなかなか大変です。が、二人の著者は非常に丁寧に、免疫の全体の流れの中で、いま説明をしている箇所が前後とどう関係しているのか、繰り返し説明してくれます。「こんなに詳細なことまで、現代の科学は分かっているのか」と驚くこと請け合いです。
また、これを読むと、「免疫力を高める」食品だの飲料だの、という話は「そんな簡単な話ではないよね」という気持ちで聴けるようになります。

『かぜの科学』

タイトルの通り、「かぜ」についての本です。かぜとはどんな病気なのか。かぜはどのように研究されてきたか。たくさんの情報、エピソードが盛り込まれていて、読んでいて飽きません。
予防法、市販薬、民間療法をばっさばっさと切っているあたりも爽快…というか、自分がかつて信じてきた方法がアッサリ否定されるので、間違いなく微妙な気持ちになります。
ただ、かぜの原因ウイルスの中でも、ライノウイルスを使った研究が中心のようで、コロナウイルスの話はあまり出てきません。「どこまで一緒なのかな?」という疑念が芽生えます。もちろん、その疑念は健全だと思います。

こちらの本にも、かぜに対する基本的な予防法・家庭内で行う対策が簡潔にまとめられていて、変なものを売りつけられるのを避けられるようになります。

増補『感染症』

こちらは最近、新聞の広告でも見るようになりましたね。『感染症 増補版』ということで新型コロナウイルスについての章が追加されて模様。私は旧版を図書館で借りて読みました。分子生物学的な知識・情報というより、過去、人類社会でどんな感染症がどのように広がり、社会に影響を与えたか。疫学や公衆衛生の観点で述べられている本、と言えるでしょうか。AIDSやSARSなど、現代の様々な感染症について短くまとまっていて勉強になりました。

Newtonの速報記事

一般向けの月刊科学雑誌『Newton』。雑誌の性格上、社会の最新ニュースを扱うのはあまり得意ではないはずなのですが、ぎりぎりのタイミングまで取材・構成した、新型コロナウイルスに関連する記事を掲載してくれています。
月刊誌なので、どうしても即時性には欠けてしまいますが、国際機関・行政機関・研究機関の示す数字や資料を参照して書かれているので、信頼性は抜群です。

病院内の感染症対策

東京警察病院のスタッフの方が書いた記事をまとめたものだそうです。出版時期は少し古いのですが、「様々な感染症予防のために病院で何が行われているか」が書かれていて、家庭での取り組みを考える際に参考になりました。すごく特別な薬剤や機器が使われているわけではないんですよね。予防は大切ですが、正しく取り組んでいれば過敏になる必要は無いことを教えてくれます。

以上、この数か月で私が読んだ書籍を紹介しました。今こそ、ウイルス、感染症、免疫について勉強してみませんか?

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