中公文庫 マンガ日本の古典
受験にも役立つ!とかなんとか、有名な東大生を広告に使っているシリーズです。「学習マンガ」という分野は各社が出版していて、40代以下の方なら子供の頃に何冊かは見たことがある、買ったことがあるんじゃないかと思います。数年前に話題になった「ビリギャル」なんて本でも、「まずはマンガでいいから歴史の流れをつかもう」という話がありました。新学期の直前には、各社のシリーズが店頭にずらりと並んで、おじいちゃんおばあちゃんからお孫さんへの贈り物、なんていう用途にも重宝している様子が見られますね。
最近の学習マンガは、大学教授が監修していて、背景の街並みから、キャラクターが身に付けている衣装などまで、掘り下げられて描かれています。子供向けとは思えない、子供向けだからこそ手を抜かない、という意気込みが伝わってきます。
もちろんそこには商売っ気もあって、表紙には人気漫画家のイラストが使われていますし、子供向けの制限で、子供にはちょっと分からない箇所、分かりにくい箇所を簡単に済ませている部分もあったりするのですが…
大人が楽しめる本格派
現代の子供向け学習マンガが、「大人も勉強になる」マンガだとしたら、 シリーズ『マンガ日本の古典』(中公文庫)は、「大人が楽しむマンガ」です。少なくとも、中学生か、できれば高校生以上でないと、ちゃんと分かるのは難しいでしょう。漫画・劇画で一時代を築いた漫画作家諸氏が、原典や参考資料に丁寧にあたりながら、限られた紙数のうちに、しかも自らの作家性を示しつつ、作品化してあります。
竹宮恵子氏による『吾妻鏡』や、矢口高雄氏の『奥の細道』は、細部まで描きこまれた絵に圧倒されます。 それでいて絵だけに頼らず、きちんと人間のドラマが描かれているのだからすごい。
古谷三敏氏の『浮世床』、巻末の作者のあとがきでは、漫画化するのに苦心惨憺したことが語られているのですが、読んだ側からすればそんなこととは思いもよらず。げらげら笑いながら読みました。
作家が腕を振るい、漫画が古典に力を与えた
これは単に古典が面白いというのを超えていると思います。古典が持つ力を、漫画家が腕を振るって料理して、新たな生命力を与えるのに成功しているのだと思います。残念ながら、作家の画風の古さ、あるいは老いがあらわれてしまっている作品もあるのですが、それには目をつぶりましょう。「古典を読むのは大変とはいえ、漫画で読むのはなあ…」などと、後ろめたさを感じる必要はありません。これは素晴らしい芸術作品であり、楽しむ価値があります。このシリーズについては、また個別に掘り下げて紹介したいと思っています。
大家によるマンガ技法論
このシリーズ、実はあとがきまで面白いです。作家、しかも大家というべき、経験豊富な漫画作家が、与えられた日本の古典をどう漫画にするか、四苦八苦した胸のうちが語られています。これは「マンガをどう作るか」というマンガ技法論としても読めます。妖怪漫画家、少女漫画家、劇画家、恐怖漫画家…ジャンルを作ってしまったような人たちが、どんなふうに作品を構想し、作り上げるのか。わずかなページですが、あとがきまで必読です。
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