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ゆたかな社会



「ゆたかな社会」と言ってよいか

人前で「日本はゆたかな社会だ」と言ったならば、「いや、子どもの貧困が問題になっているじゃないか」「社会的インフラの老朽化が問題になっている」などといった反論が出るだろう、ということは、すぐに思い浮かびます。

しかし、小売店舗に目を向ければ、町中の皆が買っても買い切れないくらいに、食べ物や、雑貨、衣料品、その他の商品があふれています。「日本はゆたかな社会ではない」と断言するのも、なんだかおかしいように思えてなりません。

私的な経済の成功と、公共的な財の構築の失敗

ガルブレイスは、本書で、私的な財を生産することに成果を挙げている点について、また生命の維持にかかわるほどの貧困が減少したことについて、現代アメリカを「ゆたかな社会」と言います。
一方、公的な財(代表としては、人の教育、走りやすい道路など公共の施設、美しい自然など)の構築・整備が少ないこと、また分配が少ないことを指摘して、これを成功と考えていいのか、と問うています。

解決策

本書はインフレの時代に書かれたので、インフレが経済政策の課題として取り上げられています。そしてインフレを抑制しようとする政策は、『生産』を重視する通念によって(インフレを抑制すれば生産が減ると予想されることから)批判・否定されてしまう、というような話に、けっこうなページが割かれています。
そんな時代に書かれた、次なる「ゆたかな社会」のためのガルブレイスの提案は、公共的な財への投資。貧しい人たちの教育。「生産」ではなく「仕事」を増やすこと、などです。総需要が足りず、デフレと思われる今の日本と、処方箋が似ているのは不思議な気もします。「公共的な投資が足りない」が鍵なのでしょう。

「通念」

 ガルブレイスの本を読むと、「通念」という言葉がしばしば使われています。これは(学者が、学会で使う専門用語ではなく)社会一般で流通し、信じられている考え、場合によっては妄信、迷信のようなもの、を指します。
ケインズ経済学を学んだのち、戦時下のアメリカ政府で物価統制の仕事に当たり、またさらに後にインド大使を勤めたガルブレイスは、研究者の目で見る現実や、必要と思われる対策と、実際に社会の支持を得て実行される政策の間に距離を見たのでしょう。
おかしな理屈が、「通念」として社会で信じられ、政策を左右する事態。これは現代社会のどこにでも起きていることではないでしょうか。
ガルブレイスの視点は、我々読者が、自分自身が持っている「通念」を客観視する機会を与えてくれるのではないかと思います。

付記:『不確実性の時代』

 歴史と経済学の関係についての同名のテレビ番組の制作過程から生まれた本『不確実性の時代』も、とても面白いです。こちらの本の方が、上記『ゆたかな社会』より文章がこなれていて、読みやすいかもしれません。社会、通念、政策について、より長い時間軸(経済学が生まれてから、現代にいたるまで)で描いています。
 

さらに付記:YouTubeに『不確実性の時代』が

テレビ番組『不確実性の時代』(Age of Uncertainty)の動画がアップロードされていました。 すごい時代だなあ。これを無償で視聴できるというのは、「ゆたかさ」の新たな次元、ということなのかもしれません。

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