「ざんねん名所」って言わないでほしい
札幌の時計台、「ざんねん名所」なんて言われ方があるようですが、軽々しく「ざんねん」とか言ったらいかんのですよ!明治維新の後、欧米から技術者・教師を招いたことはよく知られています。その中には土木や建築の専門家もいました。彼らは設計をしましたが、その建設・建築には、日本人があたりました。 欧米人が設計した欧米風の建築を、日本の大工が作る。このとき、いろいろな文化や技術が融合して、新たな文物を生み出されていたのです。 時計台をはじめとして、各地(おおむね県庁所在地)には、こうして生み出された和洋折衷の建築物(県庁舎や、県議会、学校など)があります。こういう建物をよく見ると、面白い趣味が見い出せます。
近代建築のそもそも
欧米から流入した文化を、日本人はどう受容・変容させたのか?というのは、どの分野でも興味深いものです(少なくとも、僕にとっては)。例を挙げれば、歌舞伎に『葉武烈土倭錦絵(ハムレットやまとにしきえ)』という演目があります。言うまでもなく、ハムレットの歌舞伎版です。発表されたのは明治19年です。すごいことしますよね、昔の人は。こうした「文化の翻訳」「文化の交雑」という広いテーマの中でも、建築技術・住居文化について取り上げているのが本書です。 紹介されている建物がいちいち面白い。たとえば、天守閣を持つお城のような「第一国立銀行」とか(※明治時代には、その姿が浮世絵の題材にもなっています。 東京名所図会 海運橋通り 第一国立銀行)。
建築の様式を専門用語で語るばかりではなく、関わった設計者・建築家の来歴に触れながら、なぜそのような形式・姿になったかが丁寧に語られていて、とても面白いです。
建築探偵
著者は藤森照信氏と大和ハウス工業総合技術研究所。本書は、両者で担当した週刊新潮の連載を抜粋・再編集したものだそうです。藤森氏は「建築探偵」の異名でも知られる建築家にして、江戸東京博物館館長。江戸東京たてもの園にも協力しています。この本を書くのはこの方しかいない、ですね。
本書の文章はそっけない短文が淡々と積み重なっているのですが、全体として魅力にあふれた本になっています。きちんとした構造のうちに、部品を組み上げていくようで、なんとなく建築家っぽいな、なんて思ってしまいました。
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